月次レポートを見るたびに「新規獲得は好調なのに、なぜか売上が伸びない」と感じて、リテンションという言葉が気になり始めている方は多いはずです。
実際、現場では「登録数は増えているのに、翌月には半分以上が離脱してしまう」といった相談がよくあります。
この記事では、そのモヤモヤの原因になりやすいリテンションの意味と指標の見方を、できるだけやさしく整理していきます。
・リテンションの基本的な意味と種類の違い
・代表的なリテンション指標とその考え方
・実務での判断基準とよくあるつまずきどころ
・リテンションを高めるための考え方と改善の筋道
リテンションとは何か、その意味と基本を整理する
まずは、リテンションという言葉が何を指していて、どの範囲の話をしているのかをそろえることが大切です。
ここがあいまいなままだと、他部署との会話やレポートの数字の解釈が噛み合わなくなってしまいます。
この章では、用語の意味とよくある誤解を中心に、リテンションの土台を整えていきます。
リテンションの結論と要点3つ
リテンションをざっくりまとめると、次の三つのポイントに集約できます。
一つ目は、リテンションとは基本的に「既存顧客やユーザーをどれだけ維持できているか」という考え方だという点です。
新規獲得ではなく、今いる人との関係をどれだけ長く続けられるかを示します。
二つ目は、実務では「リテンション率」「顧客維持率」などの数値指標として使われることが多いという点です。
単なるイメージではなく、期間や対象を決めて定量的に追いかけることで、改善の打ち手を検討しやすくなります。
三つ目は、どの指標をリテンションとして見るかは、ビジネスモデルごとに変わるという点です。
顧客数ベースで見るのか、売上ベースで見るのか、アクティブユーザー数で見るのかによって、意味が大きく変わります。
そのため、自社では何をもってリテンションと呼ぶのかを、チーム内で合わせておくことが重要になります。
リテンションの意味とよくある誤解
リテンションは英語の「Retention」で、保持や維持を意味する言葉です。
マーケティングの文脈では、既存顧客との関係を維持し、自社の製品やサービスを継続利用してもらうことを指すのが一般的です。
(出典:PKSHA Technology CXジャーナル) (aisaas.pkshatech.com)
一方で、現場では「リテンション=単なるリピート購入回数」と理解されてしまうことも少なくありません。
しかし、多くのビジネスでは、リピートという結果だけでなく、利用頻度やサービスの継続期間、解約率とのバランスなど、いくつかの視点を組み合わせてリテンションを捉えています。
たとえば、月額制のオンラインサービスの場合、利用ログ上は毎日アクセスがあっても、すでに解約手続きが進んでいる顧客も存在します。
このとき、「アクセスしているからリテンションは高い」とだけ評価してしまうと、解約予兆を見逃すことになります。
リテンションは一つの数値だけで決まるものではなく、複数の指標を組み合わせて立体的に見る必要があるという点が、誤解されやすいポイントです。
顧客リテンションと従業員リテンションの違い
ビジネスでリテンションという言葉が出てきたとき、多くの場合は「顧客リテンション」を指します。
これは、顧客がどれだけ離れずにいてくれているか、という視点です。
一方、人事や組織の文脈では、「従業員リテンション」という言葉も使われます。
こちらは、従業員がどれだけ長く会社に在籍してくれているかを示す考え方で、離職率と対になる指標です。
両者に共通するのは、「すでに関係のある相手とのつながりを、どれだけ継続できているかを測る」という点です。
しかし、改善の打ち手や見るべき指標は大きく異なるため、会話の中で「顧客の話なのか、従業員の話なのか」を確認しておくと混乱を防ぎやすくなります。
リテンションを追うべきタイミングと条件(判断基準)
リテンションは、どのタイミングから本格的に追い始めるべきでしょうか。
一般的には、次のような条件がそろってきた段階が、一つの目安になります。
一つ目は、新規獲得の仕組みがある程度安定し、顧客数が増え始めたタイミングです。
この段階になると、「これ以上獲得を増やすだけでなく、既存顧客に長く利用してもらうほうが効率が良いのではないか」という発想が必要になります。
二つ目は、サブスクリプションや定期購入、継続利用が前提のビジネスモデルになっているかどうかです。
このタイプのモデルでは、解約が続くと売上の土台が縮んでしまうため、リテンションをKPIとして重視する企業が多く見られます。
(出典:Commune 公式サイト コミューンマガジン) (Commune(コミューン)|相互交流で信頼を育む)
三つ目は、「獲得にかけているコスト」と「顧客から得られる生涯収益」のバランスが気になり始めたときです。
この場合は、リテンションとあわせてLTV(顧客生涯価値)を見ることで、投資の回収ができているかどうかを判断しやすくなります。
リテンションが重要視される背景と現場の実感
リテンションが重視される背景には、人口動態の変化や競合サービスの増加など、構造的な要因があります。
新規顧客を獲得し続けることが難しくなっているため、既存顧客との関係を深めることがビジネス成長のカギになっているのです。
現場では、次のような実感の声がよく挙がります。
「広告費を増やして新規登録は増やせたが、数か月後にはアクティブユーザーがほとんど残っていない」
「特定のキャンペーン後だけ解約が増える理由がわからず、リテンションの数字の読み方に困っている」
こうした状況では、単に売上や会員数の合計だけを眺めるのではなく、「いつ獲得した顧客が、どれくらいの期間残っているのか」を細かく見ることが重要になります。
これが、後述するリテンション指標やコホート分析の役割です。
リテンション指標の見方と実務での活用方法
意味が整理できたら、次に気になるのは「実際にどんな指標で追えば良いのか」という点です。
この章では、代表的なリテンション指標の考え方と、実務での判断基準、つまずきやすいポイントを解説します。
代表的なリテンション指標と基本の考え方
最もよく使われるのが、顧客維持率(リテンションレート)と呼ばれる指標です。
一般的に、一定期間のはじめと終わりの顧客数を比較し、「どれだけの顧客が継続して取引しているか」を割合で表します。
(出典:Zendesk 日本サイト) (Zendesk)
よく使われる考え方としては、次のようなイメージです。
・期首の顧客数
・その期間中に獲得した新規顧客数
・期末時点の顧客数
これらを用いて、「期間の最初からいた顧客のうち、どれくらい残っているか」を見ることで、リテンションの良し悪しを判断します。
ただし、業種やサービスの性質によって、細かな定義や切り方は変わることが多いです。
また、顧客数ベースのリテンションだけでなく、売上や利用金額ベースで見る「売上リテンション」や「収益リテンション」という考え方もあります。
高単価の顧客が離脱した場合、顧客数としては小さな変化でも、売上へのインパクトは大きくなるためです。
SaaSやサブスクでのリテンション率の具体例
SaaSやサブスク型サービスでは、リテンション率は主要なKPIの一つとして扱われることが多いです。
月次や年次で、次のような観点からリテンションを見るケースがよくあります。
・月初に契約していた顧客のうち、月末も継続している割合
・獲得月ごとにグループ分けし、何か月後まで残っているかを追うコホート分析
・アカウント数ではなく、利用金額を基準にした売上リテンション
たとえば、ある月に獲得した顧客を一つのグループとして、1か月後、3か月後、6か月後の継続率を追うことで、「どの月に獲得した顧客が長く残りやすいのか」といった違いが見えてきます。
この違いが大きい場合、獲得チャネルやプラン構成によって、リテンションの質が変わっている可能性があります。
こうした分析は、BtoB SaaSなどで一般的な手法として紹介されています。 (Equals)
リテンション指標を評価するときの判断基準
リテンション指標を評価するときに重要なのは、「単体の数字だけを見て良し悪しを判断しない」という姿勢です。
実務上は、次のような観点を組み合わせて見ることが多くなります。
一つ目は、期間の区切り方が妥当かどうかです。
サービスの利用頻度が高い場合は日次や週次、利用頻度が低い高額サービスでは月次や年次で見るなど、顧客行動のリズムに合わせた期間設定が必要です。
二つ目は、対象とする顧客の切り方が適切かどうかです。
たとえば、無料トライアル中のユーザーと、有料プランに移行したユーザーを混ぜたままリテンションを見ると、実態がぼやけてしまいます。
料金プラン別やチャネル別など、意味のある単位で分けて見ることが判断の精度を高めます。
三つ目は、リテンションと解約率(チャーン)がセットでどう動いているかを見ることです。
ある期間だけ解約率が急に上がっている場合、その前後で価格変更や大きな仕様変更がなかったかを確認することで、原因の仮説を立てやすくなります。
(出典:Qualtrics Customer Experience 記事) (Qualtrics)
リテンション施策の代表パターンと改善の流れ
リテンションを改善する施策は、業種やプロダクトによって変わりますが、よく採用される流れには共通点があります。
最初のステップは、オンボーディングの改善です。
登録直後や導入直後の数日から数週間は、ユーザーが価値を実感できるかどうかの勝負どころになります。
ここで初期体験がつまずくと、その後のリテンションが大きく落ちるケースが多く見られます。
次のステップは、継続利用を促すためのコミュニケーション設計です。
メール、アプリ内メッセージ、カスタマーサクセスの定期面談などを通じて、「次に何をするとより価値を感じられるか」を分かりやすく伝えることがポイントになります。
さらに、解約理由の収集と分析も欠かせません。
解約時のアンケートやインタビューを通じて、「期待と実際のギャップ」「使い続けなかった理由」を把握し、プロダクト開発やサポート施策に反映していくことで、リテンションの底上げがしやすくなります。
リテンション指標を見るときの注意点とよくある誤解
リテンション指標は便利な一方で、解釈を誤ると逆効果になることもあります。
代表的な注意点をいくつか挙げます。
一つ目は、短期的なキャンペーンの影響をそのままトレンドと誤解しないことです。
値引きや大型キャンペーンの直後は、一時的に獲得数や解約数が大きく動きます。
この期間だけを切り取って判断すると、本来のリテンションの傾向を見誤る可能性があります。
二つ目は、他社との単純な数値比較に注意することです。
同じ「月次リテンション率」という言葉でも、計算方法や対象顧客、期間の区切り方が異なれば、数字の意味も変わります。
業界平均や他社事例を参考にする場合は、「どのような条件で算出された数字なのか」を把握したうえで、自社の状況に当てはめる必要があります。
三つ目は、リテンションだけを追いかけて、獲得や単価とのバランスを崩してしまうことです。
たとえば、解約を恐れるあまり、値上げやプラン整理を極端に避けてしまうと、事業全体の収益性がかえって悪化する場合があります。
リテンションはあくまで重要なKPIの一つであり、売上や利益、顧客満足度などとバランスを取りながら活用することが大切です。
よくある質問
ここでは、リテンションに関してよく寄せられる質問を、いくつか取り上げます。
Q.リテンション率はどれくらいあれば良いですか。
A.一律の「正解値」はなく、業種や料金モデルによって大きく異なります。
自社のビジネスモデルに近い事例を参考にしつつ、まずは自社の過去推移を把握し、「改善トレンドに乗れているかどうか」を見るのがおすすめです。
Q.小規模サービスでも、リテンションを追う意味はありますか。
A.顧客数が少ない場合でも、「なぜ残っているのか、なぜ離れてしまうのか」を理解することは、プロダクトの磨き込みに役立ちます。
ただし、数が少ないと統計的なブレが大きいため、数字だけでなく個別の声も合わせて見ると良いでしょう。
Q.リテンションとLTVはどう関係していますか。
A.一般的に、リテンションが高いほど継続利用期間が長くなり、LTVも高くなりやすいと言われます。
その一方で、単価が低すぎると、いくらリテンションが高くても投資を回収しづらい場合もあるため、単価とリテンションの両方をセットで設計する必要があります。
リテンションとは何かと指標の意味のまとめ
・リテンションは既存顧客やユーザーを維持する考え方
・ビジネスでは主に顧客リテンションを指標として使う
・リテンション率は一定期間継続した顧客の割合を表す
・計算式は期末顧客数から新規を除き期首で割る
・期間や対象を揃えないと数字を比較できない
・顧客数だけでなく売上ベースのリテンションも重要
・SaaSやサブスクではリテンション率が主要なKPIになる
・高いリテンションはLTV向上と安定した売上につながる
・低いリテンションはオンボーディングや提供価値に課題があるサイン
・リテンションの判断基準は業種や料金モデルで変わる
・コホート分析で獲得月ごとの定着の違いを確認できる
・指標を見るだけでなく解約理由の定性情報もあわせて見る
・短期キャンペーン施策は一時的にリテンションを悪化させる場合がある
・改善施策はリピート導線とコミュニケーション設計から着手する
・数字だけを追わず顧客体験全体を最適化する姿勢が重要
・自社に合う定義と追い方を決め継続的に検証を続ける
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