顧客アンケートの集計画面を前に「NPSって何を意味していて、スコアが高いと本当に良いのだろうか」と手が止まってしまうことはないでしょうか。
NPSは顧客ロイヤルティを測る代表的な指標ですが、意味や計算方法、読み方をあいまいなまま使ってしまうと、誤った判断につながるおそれがあります。
ここでは、NPSの基本から計算方法、スコアの読み方、ビジネスでの活かし方までを整理しながら、実務で迷いやすいポイントもあわせて解説します。
・NPSが何を測る指標なのかという基本的な意味
・NPSスコアの計算方法と具体的な算出ステップ
・NPSの数字をどのような基準で読み解けばよいか
・ビジネスでNPSを活用するときの注意点とコツ
NPSの基本と指標の意味を押さえる
まずはNPSがどのような考え方の指標なのかを整理します。
意味や前提を押さえておくことで、後の計算方法やスコアの解釈がぐっと理解しやすくなります。
同じ「満足度アンケート」でも、NPSが目指しているものは一般的な満足度スコアとは少し異なります。
結論として押さえたいNPSの要点3つ
NPSの要点は次の3つにまとめられます。
一つ目は顧客ロイヤルティを「どれだけ人に薦めたいか」という視点で測る指標であること。
二つ目は0〜10の回答を推奨者と批判者に分けて「正味」の推奨度を計算すること。
三つ目はスコア単体だけでなく推奨コメントなどの質的情報と合わせて使うと効果が高いこと。
実務では「スコアを上げること」が目的化してしまいがちです。
しかし、本来の目的はスコアの裏側にある顧客体験やロイヤルティの状態を知り、改善のヒントを得ることだと意識しておくと、ブレにくくなります。
NPSの意味と、他の満足度指標との違い
NPSは「Net Promoter Score」の略で、企業やサービスをどの程度他人に薦めたいかを数値化した指標です。
顧客に「この商品(サービス)を友人や同僚にどのくらい推薦したいと思いますか」といった質問を0〜10点の11段階で答えてもらい、そこからスコアを算出します。
NPSは顧客満足度(CS)のような「今どれくらい満足しているか」よりも、「将来も継続利用し、他人にも薦めるか」というロイヤルティに近い感情をとらえようとする点が特徴です。
日本企業向けにNPSを紹介しているサイトでも、NPSは顧客満足度に代わる、あるいはそれを補完するロイヤルティ指標として説明されています。
顧客ロイヤルティは収益との相関が強く、経営指標として活用されていることも紹介されています。
(出典:NTTコム オンライン NPS解説ページ)
一方で、満足度スコアとNPSはどちらか一方が優れているわけではなく、測りたいテーマや意思決定の目的によって使い分けることが大切です。
「推奨度」を聞く質問と、その前提条件
NPSで使われる質問は、シンプルさが特徴です。
たとえば「0〜10のうち、どのくらいの確率でこのサービスを友人や同僚におすすめしたいと思いますか」といった聞き方がよく用いられます。
この質問だけを見ると簡単に思えますが、実務では次のような前提条件をそろえておくことが大切です。
- どのタイミングの顧客体験について聞いているのか
- 「友人や同僚」をイメージしやすい商品・文脈になっているか
- 回答者がサービスを十分に理解した状態で答えられているか
たとえば、オンラインショップで初回購入直後にNPSを聞くのか、到着後に聞くのかで、回答の意味合いは変わります。
現場では、タイミングや対象をそろえないままスコアを比較し、「去年より下がった」「部署ごとに差がある」と判断してしまうケースがよくあります。
NPSを解釈するときの判断基準
NPSを読む際の基本的な判断基準は「前年や前回からのトレンド」「同じ条件での比較」「コメント内容との整合性」の3つです。
スコアの絶対値だけで良し悪しを決めず、同じ条件で時系列・セグメント別に比較することが重要です。
たとえば、同じ業界でもチャネルや顧客層が違えば、平均的なNPSの水準も変わります。
そのため、「NPSは〇点あれば優秀」という単純なものさしではなく、自社のビジネスモデルや顧客属性に応じて、どこを改善すべきかを考える材料の一つとして扱うほうが現実的です。
また、自由記述コメントとスコアの傾向が合っているかを確認することで、「一部の不満が強く反映されていないか」「一時的な要因に引きずられていないか」といったバイアスも見つけやすくなります。
NPSの計算方法とスコアの読み方
ここでは、実際にNPSをどのように計算し、どのように数字を読み解いていくかを整理します。
数式自体はシンプルですが、「どの回答をどのグループに入れるか」「サンプル数が少ない場合にどう見るか」など、細かい部分で迷いやすいポイントがあります。
NPSの計算方法(数式と考え方)
NPSの計算は次のステップで行います。
1
0〜10の回答を、スコアごとに人数(または割合)で集計する
2
9〜10を「推奨者(Promoters)」、0〜6を「批判者(Detractors)」、7〜8を「中立者(Passives)」に分類する
3
全回答に占める推奨者の割合(%)から、批判者の割合(%)を引く
数式にすると、次のようになります。
NPS = 推奨者の割合(%) − 批判者の割合(%)
公式サイトでも、同じ考え方で「9〜10の推奨者の割合から0〜6の批判者の割合を引いた値がNet Promoter Scoreである」と説明されています。
(出典:Bain & Company Net Promoter System公式サイト)
たとえば、ある調査で100人中60人が9〜10、10人が0〜6、30人が7〜8だったとします。
このとき推奨者の割合は60%、批判者の割合は10%となり、NPSは60−10=50となります。
スコアの区分と読み方(良い・悪いではなく傾向を見る)
NPSでは、0〜10のスコアを次の3区分で扱うのが一般的です。
- 9〜10:推奨者(Promoters)
- 7〜8:中立者(Passives)
- 0〜6:批判者(Detractors)
推奨者は積極的にサービスを薦めてくれる可能性が高い顧客、中立者は現状に満足しているが他社に乗り換える余地もある顧客、批判者は不満が強く、周囲に否定的なクチコミをする可能性がある顧客とイメージできます。
(出典:Medallia Net Promoter Score解説ページ)
NPSは−100〜+100の範囲をとる指標です。
全員が批判者なら−100、全員が推奨者なら+100になります。
一般的には、0より大きいスコアであれば推奨者が批判者を上回っている状態といえますが、「何点なら良い」といった絶対的な基準は業界やビジネスモデルによって大きく異なります。
そのため、スコアの読み方としては「自社の過去との比較」「同じ条件のセグメント同士の比較」「同業他社の公開情報との大まかな比較」など、複数の視点を組み合わせて判断するのがおすすめです。
アンケート設計で気をつけたい点と、ありがちな誤解
現場でよく見聞きするのが「とりあえずNPSの質問を追加しておけばよい」という発想です。
しかし、次のようなポイントを押さえないと、スコアの意味が曖昧になってしまいます。
- 質問文が顧客にとって自然な表現になっているか
- 回答スケール(0〜10)のラベルが分かりやすいか
- NPS以外に聞く設問数が多すぎて、回答負荷が高くなっていないか
例えば、
担当者
「今回のサービスを、友人にどのくらい薦めたいと思いますか」
顧客
「友人に薦めることはあまり考えないサービスなので、質問の意図がよく分からないです」
というように、商品によっては「友人への推薦」というイメージが湧きにくいこともあります。
また、「NPSさえ計測しておけば顧客満足のすべてが分かる」という誤解も少なくありません。
実際には、NPSは多くの指標のうちの一つであり、問い合わせ対応時間や解約率など、ほかの定量データと組み合わせることで、はじめて全体像が見えてきます。
集計や比較のときに迷いやすいケース
NPSの集計時には、次のようなケースで迷いやすくなります。
- 回答者数が少ない状態でのスコア比較
- サービス内容が違う複数ブランドのスコア比較
- 国や文化圏の異なる顧客のスコア比較
たとえば、ある月だけ回答者が少なかった場合、たまたま批判者の割合が増えただけでNPSが大きく下がることがあります。
このようなときは、母数や回答者の属性を確認し、「サンプル数が十分か」「一部の顧客層に偏っていないか」といった視点で解釈することが重要です。
また、国や文化によっても、0〜10のスコアの付け方には傾向の違いがあります。
同じ質問でも、ある国では9〜10を付けやすく、別の国では控えめなスコアになりがちです。
こうした違いを踏まえずに一律で比較すると、「海外拠点のNPSが低いから問題だ」といった誤った判断につながりかねません。
NPSをビジネスで活かすためのポイント
最後に、NPSを単なるスコアで終わらせず、日々の改善や経営判断に結びつけるためのポイントを整理します。
実務では「毎月NPSを集計して報告しているが、具体的なアクションにつながらない」という悩みがよく聞かれます。
スコアをどう活かすかの視点を持つことで、NPSの価値は大きく変わります。
NPSを経営指標として使うときの判断基準
NPSを経営指標として扱うときの判断基準は、次の3つです。
第一に、売上や解約率、リピート率などとの関係を継続的に確認すること。
第二に、全社の一本指標にするのか、部門ごとの補助指標にとどめるのかを決めておくこと。
第三に、現場が日々の改善に使えるレベルまで結果を分解して共有すること。
NPSは、顧客ロイヤルティと業績との相関があるとする調査結果もあれば、相関が業界や設計によって変わるという指摘もあります。
そのため、「NPSが上がれば売上も必ず上がる」といった単純な前提ではなく、自社のデータを見ながら、どの程度の関連がありそうかを検証していく姿勢が重要です。
(出典:Bain & Company Net Promoter Score解説ページ)
自由記述と組み合わせて施策の優先順位を決める
現場でうまくいっている企業ほど、NPSの数値だけでなく、自由記述コメントを重視しています。
たとえば、次のようなステップで施策の優先順位を決めているケースが多く見られます。
1
NPSスコアをセグメント別(新規/既存、チャネル別など)に集計する
2
セグメントごとに自由記述コメントを分類し、「不満の多いテーマ」「感謝の多いテーマ」を可視化する
3
短期で改善できるものと中長期の投資が必要なものに分け、インパクトと実現可能性で優先順位を付ける
たとえば、通販サイトで「配送が遅い」という批判コメントが多い場合、配送リードタイムの見直しや発送通知の改善といった、具体的な施策に落とし込みやすくなります。
一方、「ブランドイメージが好きで友人にも勧めたい」といった推奨コメントが多い場合、どのような体験がその評価につながっているのかを深掘りし、他の顧客にも広げる工夫が考えられます。
業界平均や他社比較をどのように扱うか
NPSの情報を扱うなかで、多くの方が気になるのが「自社のNPSは業界平均と比べて高いのか低いのか」という点です。
海外では業界別のベンチマークが公表されることもありますが、そのまま自社に当てはめるのは注意が必要です。
理由としては、次のような点が挙げられます。
- 調査対象の国や顧客属性が自社と異なる可能性がある
- アンケートの質問文やタイミングが統一されていないことが多い
- 同じ業界でもビジネスモデルによって期待値が変わる
実務では、他社と絶対値を競うよりも、自社のNPSのトレンドを追いながら、なぜ上がったのか、なぜ下がったのかをチームで対話する材料として使うほうが有効です。
たとえば「サポート体制を変えた月から批判者が減った」「あるキャンペーン後に推奨者が増えた」など、変化の理由を議論することで、NPSが組織学習のきっかけになります。
よくある質問
Q1
NPSはどのくらいの頻度で測定すればよいですか
ビジネスの種類によりますが、四半期に一度など、改善サイクルと合わせて定点観測するケースが多く見られます。
頻度を上げすぎると顧客の負担が増えるため、重要な接点(契約更新時、利用後、サポート対応後など)に絞ることも一つの考え方です。
Q2
NPSだけを見て施策を決めても問題ありませんか
NPSはあくまで一つの指標です。
解約率や継続率、問い合わせ件数などの指標と組み合わせて判断することで、よりバランスの良い意思決定ができます。
NPSだけに依存すると、一部の声に引きずられて全体像を見失うおそれがあります。
Q3
スコアがマイナスでも気にしなくてよい場合はありますか
新サービスの立ち上げ直後や、期待水準の高い業界では、NPSがマイナスからスタートすることもあります。
その場合でも、セグメント別に見ると特定の顧客層ではプラスになっている、といった可能性があります。
まずは「どの顧客層でどのくらいのNPSなのか」を分けて見ることが重要です。
Q4
社員の評価やインセンティブをNPSに連動させてもよいですか
NPSの改善に現場を巻き込む目的でスコアを評価に紐づけることもありますが、スコアを上げること自体が目的化しやすいというデメリットもあります。
不正確な回答を促してしまうおそれもあるため、まずはチームの学びや改善アイデアの共有など、行動面の評価と組み合わせる形を検討する企業も増えています。
NPSの意味と計算方法についてのまとめ
・NPSは顧客が他人に薦めたいかどうかを測る指標
・0〜10の回答を推奨者中立者批判者の三つに分類する
・NPSは推奨者割合から批判者割合を引いた値で表す
・スコアはマイナス一〇〇からプラス一〇〇までの範囲をとる
・絶対値よりも自社のトレンドとセグメント別の違いを重視する
・業界や国によってスコアの付き方や平均水準は大きく異なる
・自由記述コメントと合わせて顧客体験の背景まで読み解く
・母数や回答者属性を確認し統計的なばらつきを意識して解釈する
・NPSは顧客満足度の代わりではなくロイヤルティを補完的に測る指標
・売上や解約率などほかの経営指標と関連性を確認しながら使う
・他社との単純なスコア比較より社内の継続的な改善対話に活用する
・アンケート設計と実施タイミングをそろえて比較条件を整える
・社員評価と強く連動させるとスコア至上主義のリスクが高まる
・新サービス立ち上げ期などはマイナスでも背景を見極めて判断する
・最終的な経営判断は自社の状況や専門家の助言も踏まえて行う
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