「同じ売上データのはずなのに、部門ごとに数字が違って会議が紛糾してしまう。」
日々の業務の中で、こんなモヤモヤを抱えながら、データガバナンスという言葉を聞き、何から手を付ければよいか迷っている方も多いはずです。
データを活用して意思決定をしたい一方で、ルールや体制を作るとなると難しそうに感じてしまい、後回しになるケースも少なくありません。
この記事では、データガバナンスの意味と目的を整理しながら、現実的にどのようなステップで進めるとよいかを、できるだけ専門用語をかみ砕いて紹介します。
自社の状況に合わせて「どこから手を付けるか」の判断材料として活用してください。
・データガバナンスの基本的な意味と役割
・企業におけるデータガバナンスの主な目的と効果
・現場で実践しやすいデータガバナンスの進め方ステップ
・よくある疑問とつまずきやすいポイントへの考え方
データガバナンスとは何かを整理する
データガバナンスは、データ活用の前提となる考え方でありながら、用語のイメージがつかみにくい概念です。
まずは定義と関連する言葉を整理し、なぜ今、データガバナンスが重視されているのかを見ていきます。
ここで全体像をつかんでおくと、後の目的や進め方の理解がスムーズになります。
結論:データガバナンスの要点3つ
データガバナンスは、一言で言えば「データを組織として適切に扱うためのルールと責任の枠組み」です。
多くの場合、次の3点を押さえることが要点になります。
1つ目は、データに関する権限と責任を明確にすることです。
誰がどのデータに責任を持ち、どのような判断を行うかを決めることで、曖昧さを減らします。
2つ目は、データの品質や安全性を確保するための方針やルールを定めることです。
定義、更新手順、アクセス権限などを整理し、ばらばらの運用を減らします。
3つ目は、ビジネスの目的に沿ってデータを有効活用できる状態を維持することです。
データガバナンスはルール作りだけではなく、データから価値を生み出すための土台づくりでもあります。
国際的なデータマネジメント標準では、データガバナンスを「データ資産の管理に対する権限と統制の行使」と説明しており、ここまでの整理と方向性は共通しています。
(出典:DAMA Data Governance 解説ページ) (ダマMN)
用語の意味と前提:データマネジメントとの違い
データガバナンスとよく混同される言葉に「データマネジメント」があります。
両者は近い関係にありますが、前提として次のような違いを意識しておくと整理しやすくなります。
一般的には、データマネジメント=データを扱う具体的な活動、データガバナンス=それらを統制する仕組みや枠組みという関係で説明されます。
たとえば、顧客マスタの重複を削除したり、データベースを構築したりするのはデータマネジメントの領域です。
一方で、「顧客マスタの定義はこうする」「重複削除は誰の責任で行う」「どの部署が最終的な決定権を持つ」といったルールや責任の決め方がデータガバナンスにあたります。
現場では、データマネジメントの作業だけが先行し、ガバナンスが後追いになってしまうことが多く、結果として部署ごとに異なるルールが並存する状況が生まれがちです。
国際規格のISO/IEC 38505シリーズでは、データガバナンスをITガバナンスの一部として位置付け、経営レベルでの方針と責任の明確化を求めています。
(出典:ISO 38505-1 概要ページ) (ISO)
背景:なぜ今データガバナンスが重視されるのか
近年、企業におけるデータガバナンスが注目されている背景には、いくつかの要因があります。
代表的なのは、データ量の増加、クラウド利用の拡大、そして個人情報や機密情報を含むデータ活用の場面が急速に広がっていることです。
現場では、次のような声がよく聞かれます。
「営業部と経理部で売上の数字が合わず、どちらを信じてよいか分からない。」
「担当者が変わった途端にデータ更新が止まり、システム上の情報が古くなってしまった。」
このような状況が続くと、データに対する信頼が下がり、せっかくの分析基盤やBIツールがうまく活用されないという問題が起こります。
経済産業省のデジタルガバナンス・コード3.0でも、データ活用を企業価値向上に結びつけるためには、経営レベルでのガバナンス整備が重要であると示されています。
(出典:デジタルガバナンス・コード3.0 概要) (経済産業省)
注意点とよくある誤解
データガバナンスには、いくつかありがちな誤解があります。
代表的なものを挙げておきます。
1つ目は、**「データガバナンス=厳しい統制で、現場の自由度を奪うもの」**というイメージです。
実際には、統制を強めることだけが目的ではなく、現場が安心してデータを活用できるようにルールを整えることが重要です。
2つ目は、**「一度ルールを作れば完了する取り組み」**だと考えてしまうことです。
データやシステム、ビジネスの形は変化し続けるため、ルールも定期的な見直しが前提になります。
3つ目は、**「IT部門だけのテーマ」**だと捉えてしまう点です。
実際の業務の意味や判断を理解しているのは現場の業務部門であり、IT部門と協力してルールを決めることが欠かせません。
現場では、「ルールが細かすぎて業務が止まるのでは」といった懸念から、ガバナンスの議論自体が避けられることもあります。
このような場合は、「何を自由にするために、どこだけは守る必要があるのか」を整理し、メリハリのあるルール設計を意識するとよいでしょう。
データガバナンスの目的と効果を理解する
ここでは、データガバナンスの目的を整理し、それによってどのような効果が期待できるのかを見ていきます。
自社の状況によって重視すべきポイントが変わるため、目的ごとの判断基準を押さえておくことが大切です。
経営課題と結びつけて考えることで、データガバナンスの優先順位も明確になります。
データガバナンスの主な目的と期待できる効果
データガバナンスの目的は組織によってさまざまですが、多くの企業に共通する主な目的は次のように整理できます。
1つ目は、データの品質と信頼性の向上です。
定義や更新ルールが明確になることで、「どの数字が正しいのか分からない」という状態を減らせます。
2つ目は、リスク管理とコンプライアンス対応です。
個人情報や重要情報へのアクセス権限を適切に管理し、不正利用や情報漏えいのリスクを下げるねらいがあります。
3つ目は、意思決定のスピードと精度の向上です。
信頼できるデータが整っていれば、会議の場で定義確認に時間を取られず、より本質的な議論に集中できます。
独立行政法人が公開しているデータガバナンスのガイドブックでも、品質向上、リスク管理、意思決定の高度化といった観点が、データガバナンスの価値として整理されています。
(出典:IPA データガバナンス読本) (経済産業省産業技術総合研究所)
目的別に見る代表的な活用シーン
目的をもう少し具体的な場面でイメージすると、次のような活用シーンがあります。
例えば、「全社で共通のKPIを使いたい」という場合には、売上や利益、契約数などの定義を統一し、どのシステムから情報を取得するかを決める必要があります。
これは、品質と信頼性の向上を目的としたデータガバナンスの一例です。
また、「新サービスで外部パートナーとデータ連携を行いたい」という場合には、どのデータをどこまで共有するのか、誰が最終的な責任を負うのかを事前に決めておく必要があります。
これは、リスク管理と価値創出を両立させるためのデータガバナンスの例と言えます。
現場では、「分析を始めた後で、そもそもデータの持ち方が各部署で違うことに気付いた」というケースが少なくありません。
その場合、分析プロジェクトの前に、目的に関連するデータだけでも定義や管理方法をそろえることが、現実的な第一歩になります。
判断基準:自社で何から優先すべきか
データガバナンスの目的は多岐にわたるため、すべてを一度に実現しようとすると計画が重くなりがちです。
どこから始めるかを決めるためには、次のような判断基準が役に立ちます。
1つ目の基準は、経営課題との結び付きの強さです。
経営や事業の重要指標に直結するデータから整備した方が、社内の納得感を得やすくなります。
2つ目の基準は、リスクの大きさです。
個人情報や機密情報など、万一のトラブルが重大な影響につながるデータについては、優先度を高める必要があります。
3つ目の基準は、現場の負担と実現可能性です。
ルールを厳しくしすぎると、入力や確認の手間が増え、結局運用が続かないこともあります。
ルールを決める際には、「現場が実行できるかどうか」を必ずセットで検討することが重要です。
例えば、「半年以内に経営会議用のKPIを統一する」という目標を置き、そのために必要なデータだけを対象にガバナンスを整える、といった現実的な絞り込みがよく行われます。
目的設定でつまずきやすいポイント
目的設定でよくあるつまずきとして、「目的が抽象的すぎる」ことが挙げられます。
「データ活用を進めたい」「DXを推進したい」といった表現だけでは、何をどこまでやるかが決まりません。
また、「法令対応」と「ビジネス価値の創出」がごちゃまぜになったまま議論が進むケースも見られます。
この場合は、法令・リスク対応として最低限必要な事項と、ビジネス価値向上のために強化したい事項を分けて整理すると、優先順位がつけやすくなります。
もう1つの注意点は、「ツール導入自体が目的化してしまう」ことです。
カタログ上の機能に合わせて目的を語ってしまうと、現場の課題とのずれが生じます。
目的はあくまでビジネスや現場の課題から出発し、ツールはその目的を達成するための手段として位置付けることが重要です。
デジタル庁のデータガバナンス関連資料でも、データの統治を単独のプロジェクトではなく、組織全体の価値創出と結び付けて考えることの重要性が示されています。
(出典:データガバナンス・ガイドライン) (デジタル庁)
データガバナンスの進め方とよくある質問
ここからは、データガバナンスを実際に進めていく際の全体像とステップを整理します。
あわせて、現場でよく出てくる疑問も取り上げながら、どのような考え方で進めるとよいかを紹介します。
完璧な仕組みを一気に作ろうとするのではなく、小さく始めて育てていく視点が重要です。
進め方の全体像:小さく始めて育てる
データガバナンスの進め方は組織によって異なりますが、一般的には次のような流れで考えると整理しやすくなります。
- 目的と対象範囲を決める
- 体制と役割を決める
- ルール(方針・基準・プロセス)を決める
- 現場に展開し、運用状況をモニタリングする
- 課題を踏まえてルールや体制を見直す
重要なのは、最初から全社・全データを対象としないことです。
まずは「経営会議の主要KPI」「特定のサービスの顧客データ」など、ビジネスインパクトが高く、関係者を特定しやすい範囲から取り組むと、成功しやすくなります。
実務での進め方ステップと現場例
もう少し具体的なステップとして、次のような形で進めるケースがよく見られます。
ステップ1:課題と対象データの洗い出し
関係者とともに、現在困っている点を洗い出し、どのデータが関わっているかを整理します。
例えば、営業部門と経理部門の担当者が集まり、「売上の数字が合わない」原因となっているデータや業務フローを棚卸しします。
ステップ2:役割と責任の整理
データオーナー(最終的な責任者)、データステュワード(現場運用の担当者)などの役割を決めます。
現場では、次のような会話が交わされることがあります。
「この顧客マスタの最終的な定義って、どの部署が決めるべきでしょうか。」
「日々のメンテナンスは、どのチームが担当するのが現実的ですか。」
ステップ3:ルールの設計とドキュメント化
データ項目の定義、更新フロー、権限管理、品質チェックの方法などを、できるだけシンプルな形で文書化します。
ここでは、現場が実行できるレベルまで具体化することがポイントです。
ステップ4:試行運用とフィードバック
まずは一部の部署やプロジェクトで試行し、運用上の問題点を洗い出します。
例えば、「入力チェックが厳しすぎて、現場の登録が滞ってしまう」といった声があれば、ルールの緩和やプロセスの見直しを検討します。
ステップ5:全社への展開と継続的な見直し
試行結果を踏まえたうえで、徐々に対象範囲を広げます。
このとき、定期的なレビューの場を設け、データ品質や運用状況を確認する仕組みを作っておくと、取り組みが継続しやすくなります。
実務では、「最初に作ったルールが現場に合わず、数か月で形骸化してしまった」というケースも少なくありません。
そのため、最初から完璧なルールを目指さず、試行しながら調整していく前提で設計することが重要です。
よくある質問
Q1. データガバナンスは、どの部署が主導するべきですか。
A. 一般的には、経営企画部門や情報システム部門が中心となり、業務部門も含めた横断的な体制を組むことが多いです。
経営課題との結び付きを強くしたい場合は、経営層や経営企画が旗振り役となり、ITと業務部門が協力する形が現実的です。
Q2. 中小規模の組織でも、データガバナンスは必要でしょうか。
A. 組織規模に関わらず、データに基づいて意思決定を行うのであれば、基本的なガバナンスの考え方は有用です。
ただし、専任組織を作るのではなく、既存の会議体や役割の中に責任やルールを組み込むなど、規模に応じた軽い形から始めるのが現実的です。
Q3. ルールが増えすぎて、現場が窮屈にならないか心配です。
A. ルールの数よりも、「何のためのルールか」が明確であることが重要です。
現場の手間とリスク低減のバランスを常に確認し、不要なルールは見直していくスタンスが求められます。
Q4. どの程度、法令や規制まで意識する必要がありますか。
A. 個人情報や特定の業種に関わるデータを扱う場合、関連する法律やガイドラインを踏まえる必要があります。
組織としての基本方針を整理したうえで、必要に応じて専門家の助言を受けることが望ましいです。
データガバナンスの目的と進め方についてのまとめ
・データガバナンスはデータの扱い方を統制する枠組み
・権限と責任を明確にし品質と安全性を高める
・ビジネス目的に沿ったデータ活用を支える土台となる
・データマネジメントの活動全体を方向付ける役割を持つ
・今はデータ量の増加とリスク拡大で重要性が高まっている
・品質向上リスク管理意思決定高度化が主な目的となる
・自社にとって重要なデータと経営課題から優先順位を決める
・法令対応と価値創出の目的は分けて整理すると判断しやすい
・全社一括ではなく影響が大きい範囲から小さく始める
・データオーナーなどの役割と責任を先に明確にしておく
・現場が実行可能なレベルまでルールを具体化して文書化する
・試行運用でフィードバックを得てルールを柔軟に修正する
・ツール導入を目的化せず課題解決の手段として位置付ける
・ルールと負担のバランスを見ながら継続的に見直す
・自社の状況に合った形で無理なく育てていく姿勢が大切
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