月次レポートを前に、上司から「今月のMRRはどうなっている?」と急に聞かれ、数字は出せても意味や見方をうまく説明できずに戸惑った経験はないでしょうか。
サブスク型のSaaSビジネスでは、売上や契約数よりもMRRが重要だと言われることが多いですが、その定義や計算ルールは会社やツールによって少しずつ違います。
この記事では、MRRの基本的な意味と計算方法を整理しつつ、現場で迷いやすいポイントや注意点も含めて解説します。
・MRRがSaaSビジネスで重視される理由
・MRRの正しい意味と売上・ARRとの違い
・基本的なMRRの計算式と具体的な数値例
・実務でMRRを運用するときの判断基準と注意点
MRRとは何かとSaaSの基本指標としての意味
SaaSやサブスク型ビジネスでは、単発の売上よりも継続的に入ってくる収益をどれだけ積み上げられているかが重視されます。
その「毎月、どのくらいの金額を安定的に見込めるか」を表す代表的な指標がMRRです。
ここでは、MRRの要点と、売上やARRとの違いを整理していきます。
MRRのポイントを3つに整理すると
MRRを一言で説明しようとすると、どうしても抽象的になりがちです。
現場で理解しやすくするために、要点を次の3つに分けて押さえると整理しやすくなります。
- 毎月発生する継続課金だけを集計した金額であること
- 一時的な初期費用やスポット請求は含めないこと
- ビジネスの「今の安定収益力」をざっくり把握するための指標であること
例えば、月額1万円のプランに100社が契約していれば、単純化したMRRは100万円になります。
このとき、導入時に別途請求した初期費用やコンサル費用があっても、MRRには含めません。
MRRの基本的な意味と前提条件
MRRは「Monthly Recurring Revenue(毎月の継続収益)」の略で、サブスクリプションから得られる予測可能な月次収益を表します。
SaaS向け課金プラットフォームなどでも、継続的なサブスクリプション収益のみを対象とし、一時的な請求は除外するのが一般的な考え方とされています。(Chargebee)
よくある前提は次の通りです。
- 対象は「有効な契約(アクティブサブスクリプション)」のみ
- 営業割引やクーポンなどをどこまで含めるかは、あらかじめルールを決める
- 税金や返金、ペナルティなどは通常MRRに含めない
実務では、年額プランや従量課金、無料トライアルなどが混ざるため、MRRの定義や算出ルールを社内で共有していないと、レポート作成のたびに数字が食い違うことがあります。
まずは「何を含めて、何を含めないのか」という前提を明文化することが重要です。
MRRとARR・売上高との違い
MRRとよく比較される指標に、ARR(Annual Recurring Revenue/年間の継続収益)があります。
ARRは、MRRを12倍したものとして扱われることが多く、より長期的な視点でサブスク収益を把握するために用いられます。(ハブスポット)
一方で、月次の売上高とは次のような違いがあります。
- 売上高
- 初期費用やスポット案件の売上も含めた「その月に計上されたすべての売上」
- MRR
- 継続契約からの月次ベースの収益だけを切り出した「安定的に続く部分」
現場では、売上高は「会計上の事実」、MRRは「ビジネスの継続力を示す指標」というイメージで使い分けるケースが多く見られます。
同じ月に高額な初期費用が多く計上されていても、MRRが伸びていなければ「将来の安定収益は増えていない」と判断されることもあります。
SaaSビジネスでMRRが重視される理由
SaaSやサブスク型ビジネスでは、継続課金を前提に初期費用を抑えたり、無料トライアルを提供したりするモデルが一般的です。
このようなモデルでは、短期的な売上よりも、どれだけ確実な継続収益を積み上げられているかが、投資や採用の判断材料として重視されます。(Stripe)
例えば、現場では次のような場面でMRRがよく使われます。
- 投資家や経営陣へのレポートで、事業成長のトレンドを示す
- 新機能リリース後に、特定プランのMRRがどれだけ増えたかを確認する
- マーケティング施策ごとの貢献度を「新規MRR」で比較する
このとき、「MRRが増えた=事業が健全に伸びている」とは限りません。
値引きキャンペーンで短期的に契約を増やした結果、MRRは増えても利益率が大きく下がっているケースも実務ではよく見られます。
MRRはあくまで重要なひとつの指標であり、解約率やLTV、粗利などと組み合わせて見ることが前提だと理解しておくと安心です。
MRRの計算方法と実務での活用ポイント
MRRは概念としてはシンプルですが、実際に数字を出そうとすると、「年額プランはどう扱うか」「従量課金はどの水準で固定するか」など、細かな判断が必要になります。
ここでは基本の計算式から、少し複雑なケースの考え方、そして現場での判断基準や注意点までを整理します。
会計処理や税務上の扱いではなく、一般的なSaaS事業者の経営管理の観点からの解説であり、最終的な処理は自社の会計・税務の専門家に確認する前提で読んでください。
基本のMRR計算式と具体例
最もシンプルなMRRの計算は、次の式で表せます。
MRR = アクティブな顧客数 × 1顧客あたりの平均月額単価
SaaS向けの解説でも、「MRRはアクティブな契約の月額課金を合計したもの」として紹介されることが一般的です。(Chargebee)
具体例で見てみます。
- 月額1万円のプランに契約している顧客が80社
- 月額2万円のプランに契約している顧客が20社
この場合、MRRは
- 1万円 × 80社 = 80万円
- 2万円 × 20社 = 40万円
- 合計 120万円
となります。
現場では、レポートツールが自動でMRRを計算するケースが多いですが、元になる考え方として「各契約の月額換算値をすべて足したもの」と理解しておくと、数字の違和感に気付きやすくなります。
年額プランや従量課金をMRRに直す考え方
実務では、すべての契約が月額課金とは限りません。
年額プランや四半期払い、従量課金などが混在するときは、それぞれを「月額ベースに正規化(ノーマライズ)」してMRRを計算するのが一般的です。(Stripe サポート)
代表的な考え方は次の通りです。
- 年額プラン
- 例:年額12万円の契約 → MRRは1万円(12万円 ÷ 12か月)
- 四半期払いプラン
- 例:四半期ごとに9万円の契約 → MRRは3万円(9万円 ÷ 3か月)
- 従量課金プラン
- 過去数か月の平均利用量から「平均月額」を算出し、その金額をMRRとして扱う
現場では、年額プランの成約が一気に増えた月だけ売上が大きく跳ねても、MRRとしては12か月に均して増加分を捉えるという運用がよく行われています。
これにより、一時的な売上の波をならし、事業の基礎体力を継続的に把握しやすくなります。
MRRを解釈するときの判断基準
MRRの数字を見るときは、「いくらか」だけでなく、「どう変化しているか」「何が原因で変化しているか」をセットで考える必要があります。
判断の観点として、次のような問いを用意しておくと実務で役立ちます。
- 前月比・前年同月比でどのくらい増減しているか
- 増減の内訳は「新規」「アップセル」「ダウングレード」「解約」のどこが大きいか
- 単価アップによる成長か、顧客数増による成長か
- 値引きやキャンペーンの影響で一時的に増えていないか
例えば、ある月にMRRが前月比で+20%になっていたとしても、内訳を見ると「期間限定の大幅値引きで獲得した顧客が大半」というケースが実務では少なくありません。
この場合、短期的にはMRRが伸びていても、キャンペーン終了後の解約や値上げ時の離脱リスクを十分に考慮する必要があると判断できます。
MRRで起こりやすい誤解と注意点
MRRは非常に便利な指標ですが、使い方を誤ると意思決定をミスリードすることがあります。
よくある誤解と注意点は次の通りです。
- MRRだけを見て「事業は順調」と判断してしまう
- 実際には解約率が高く、獲得コストも膨らんでいるケースがある
- キャンペーンや割引を含めたMRRを、そのまま将来のベースラインとして扱う
- 一時的な大口契約をMRRに入れてしまい、解約時に急落してしまう
また、MRRの定義や集計ルールはツールや企業によって微妙に異なるため、外部のベンチマークと比較するときは、前提条件を確認しておくことが欠かせません。(Stripe ドキュメント)
現場では、「以前使っていたツールと、新しく導入したツールでMRRの数字が一致しない」という相談が起きることがあります。
この多くは、割引やアドオン、未払い状態の扱いなど、計算ルールの違いに起因するため、自社としての基準を一度言語化しておくとトラブルを防ぎやすくなります。
MRRに関するよくある質問
Q1.MRRには無料トライアルユーザーも含めるべきですか?
A.一般的には、無料トライアルだけのユーザーはMRRに含めません。
有料に転換したタイミングで、初めてMRRの対象とするケースが多いです。
Q2.解約申請済みだが利用可能期間が残っている契約はどう扱いますか?
A.「いつまでMRRに含めるか」は会社によって運用が分かれます。
最終利用月までは含めるか、解約申請時点で除外するかをルール化し、同じ基準で継続運用することが重要です。
Q3.会計上の売上とMRRが一致しないのは問題ですか?
A.MRRは経営管理用の指標であり、会計上の売上とは目的も定義も異なります。
一致している必要はなく、両者の違いを理解したうえで併用することが一般的です。
Q4.税務申告や公式な資料にMRRを使っても大丈夫ですか?
A.ここで説明しているMRRは、一般的なSaaS事業者の管理指標としての考え方です。
具体的な会計処理や税務上の扱いは国や制度によって異なるため、専門家に相談したうえで判断してください。
MRRの意味と計算方法についてのまとめ
・MRRはサブスク型ビジネスの月次の安定収益
・MRRには継続課金だけを含め一時金は含めない
・MRRはARRや売上高とは見る目的が異なる指標
・SaaSでは成長性や再現性を測る基本のKPIになる
・基本式は顧客数×1顧客あたり月額単価で求める
・請求が年払いでも月額に割り戻してMRRに換算する
・オプションや割引をどこまで含めるか方針を決める
・MRRは増減だけでなく内訳の変化も一緒に確認する
・新規MRRと解約MRRを分けて追うと課題が見えやすい
・MRRだけで判断せずチャーン率などと組み合わせる
・急激なMRR増加時は値引き過多など質にも注意する
・従量課金は平均利用量を前提にMRR化する必要がある
・MRRの定義はツールごとに微妙に異なる点を理解する
・意思決定には期間や季節要因を揃えて比較する
・自社のビジネスモデルに合うMRRルールを継続運用する
