深夜に売上レポートを見ながら、「広告費が回収できているのか、LTVをどう計算すればいいのかよくわからない」とモヤモヤしている人は少なくありません。
LTVは大事だと聞くものの、式が複数あったり、事業によって考え方が違ったりして、結局どれを使えばよいのか迷いやすい指標です。
この記事では、LTVの基本的な意味から代表的な計算方法、ビジネスでの使い方や注意点までを整理して解説します。
・LTVの基本的な意味と押さえるべき要点
・代表的なLTVの計算式とそれぞれの特徴
・事業やモデル別にLTVの式を選ぶ判断基準
・LTV計算で起こりがちな誤解と注意点
LTVの基本と考え方を整理する
この章では、LTVがそもそも何を表す指標なのか、その意味と前提を整理します。
まずは細かい計算式よりも、「何を知るための数字なのか」をはっきりさせることが大切です。
そのうえで、どのような条件で解釈が変わるのか、過信しないためのポイントを見ていきます。
LTVの結論と押さえておきたい要点3つ
LTVは、一人の顧客が自社にもたらす利益の合計額を推定する指標です。
売上ではなく、原価やコストを引いた「利益ベース」で考えるのが一般的です。
実務で最低限押さえておきたい要点は、次の3つです。
1つ目は、LTVは未来の収益を含んだ「見込み値」であり、あくまで推計だという点です。
2つ目は、顧客ごとではなく、顧客グループの平均値として使うことが多いという点です。
3つ目は、LTV単体ではなく、獲得コスト(CACなど)とのバランスで見る指標だという点です。
例えば、あるサブスクサービスで「LTVが3万円」とわかれば、「1人の顧客を獲得するのに、平均でいくらまでなら使ってよさそうか」を逆算できます。
このように、LTVは広告費やキャンペーン投資の上限を考えるときの目安として使われることが多いです。
LTVの意味とよくある誤解
LTVは「Life Time Value」の略で、日本語では「顧客生涯価値」と訳されます。
ここでいう「ライフタイム」は、顧客が自社と取引し続ける期間を指します。
よくある誤解の1つは、LTV=売上の合計だと考えてしまうことです。
売上の合計だけを見ると、原価が高い商材や返品の多い商材のリスクを見落としやすくなります。
そのため、一般的には売上から変動費や一部コストを差し引いた「粗利ベース」でLTVを計算する方法がよく使われています。
(出典:マーケティング関連サービス公式サイト)
もう1つの誤解は、LTVが「1つの正解の数字」だと思ってしまうことです。
実際には、仮定する期間やリピート率、解約率などの条件によって、LTVの値は大きく変わります。
そのため、LTVを使うときは「どの条件のもとで計算したLTVなのか」を必ずセットで確認することが重要です。
LTVを考えるときの前提条件とデータの範囲
LTVは、前提条件の置き方によって結果が変わる指標です。
代表的な前提として、次のようなものがあります。
- どこまでの期間を「ライフタイム」とみなすか
- 利益を粗利ベースで見るか、営業利益ベースで見るか
- オンラインだけを見るか、店舗・電話なども含めるか
例えば、サブスクサービスでは「解約率から平均継続期間を推定し、その期間までをライフタイムとする」という前提がよく使われます。
一方で、単発購入が中心のECでは「過去3年間の購買データから、今後も同じような行動が続く」と仮定してLTVを推計するケースがあります。
現場では、「オンラインショップの売上だけでLTVを計算していたが、実は店舗でのリピートが多く、顧客の真の価値を低く見積もっていた」というケースも見られます。
このようなズレを避けるためには、どのチャネルのデータを含めるかを最初に決めることが大切です。
LTVをどの粒度で見るかの判断基準
LTVは、顧客単位・セグメント単位・全体平均など、さまざまな粒度で計算できます。
どの粒度で見るかは、次のような判断基準で選ぶと整理しやすくなります。
- 施策の対象が「誰」なのか
- 変えたい行動が「どのタイミングの何」なのか
- 利用できるデータの粒度はどこまでか
例えば、「30代女性向けの新規広告を増やすべきか」を検討するなら、「30代女性新規顧客のLTV」と「その他セグメントのLTV」を比較する粒度が適切です。
逆に、個別の顧客ごとのLTVはばらつきが大きく、施策判断には使いにくいことが多いです。
あるECでは、「新規顧客全体のLTV」と「キャンペーン経由新規のLTV」を比べることで、「割引キャンペーン経由の顧客はリピートが少なく、LTVが低い」という傾向を把握していました。
このように、意思決定の単位に合わせて粒度を選ぶことが、LTVを有効に使うためのポイントです。
LTV指標を過信しないための注意点
LTVは便利な指標ですが、未来を完全に予測するものではないという前提を忘れないことが重要です。
特に、次のような点には注意が必要です。
- 事業環境や競合状況が変わると、過去のLTVが通用しなくなる
- 一部のヘビーユーザーに数字が引っ張られ、平均値が高く見える
- コストの扱いを変えると、LTVが大きく変わる
例えば、値上げやサービス改定のあとも、過去のLTVをそのまま広告投資の判断に使ってしまうと、「思ったより回収できていなかった」ということが起こりがちです。
また、LTVが高いセグメントに広告費を集中した結果、新規顧客の裾野が狭くなり、長期的には成長が鈍ったという事例もあります。
そのため、LTVはあくまで意思決定を補助する指標の1つとして使い、他のKPIや現場の感覚と合わせて判断することが現実的です。
特に投資額が大きくなる場合は、社内の財務担当者や外部の専門家と前提条件をすり合わせておくと安心です。
LTVの計算方法と活用のポイント
ここからは、具体的なLTVの計算式と、その使い分け方を見ていきます。
事業モデルによって適した計算方法が異なるため、自社の状況に合った式を選ぶことが重要です。
また、計算したLTVをどのように実務に落とし込むかについても、つまずきやすいポイントとあわせて解説します。
代表的なLTVの計算式と特徴
LTVの代表的な計算式として、次のようなものがあります。
1つ目は、単純な掛け算の形です。
- LTV=平均購入単価×購入頻度×継続期間(または平均継続回数)
この式は、ECや小売など、一定期間の購買履歴が蓄積されているビジネスでよく使われます。
(出典:CRMツール提供企業の公式サイト)
2つ目は、サブスクモデルで使われる式です。
- LTV=平均月次売上(ARPU)×平均継続月数
- または LTV=平均月次売上×粗利率÷解約率
解約率から平均継続期間を逆算する方法は、サブスク系SaaSなどでよく用いられます。
(出典:サブスクリプション型サービス提供企業の公式サイト)
3つ目は、顧客ごとに割り引いて計算する「割引キャッシュフロー型」のLTVです。
この方法では、将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に直して合計するため、より金融的な考え方に近くなります。
実務では、まずは1つ目や2つ目のシンプルな式から始め、必要に応じて精度を高めていくケースが多いです。
一般的なLTVの計算ステップ
一般的なLTVの計算は、次のステップで進めると整理しやすくなります。
1
対象となる顧客グループと期間を決める
2
必要な指標(平均購入単価、購入頻度、継続期間など)を集計する
3
選んだLTVの式に当てはめて計算する
4
獲得コストや広告費と比較して妥当性をチェックする
例えば、あるオンラインショップで「新規顧客のLTV」を知りたい場合、次のように考えられます。
- 対象:過去1年間に初回購入した新規顧客
- 期間:初回購入から2年間
- 指標:平均購入単価、年間購入回数、2年間の継続率
この条件で集計した「新規顧客の平均的なLTV」と、「新規獲得にかけている広告費」を比較すれば、「今の広告投資は長期的に見て合っていそうか」をざっくり判断できます。
現場では、「まずは売上ベースでざっくりLTVを出し、その後、粗利ベースに切り替えて精度を上げる」という流れで進めるケースもよく見られます。
サブスクビジネスでのLTV計算の考え方
サブスクビジネスでは、月額課金や解約率の情報が取りやすいため、次のような計算方法がよく使われます。
- LTV=平均月額課金額×粗利率×平均継続月数
- 平均継続月数=1÷月次解約率
例えば、月額3000円、粗利率70%、月次解約率5%のサービスがあったとします。
平均継続月数は「1÷0.05=20カ月」となり、LTVは「3000円×0.7×20=4万2000円」となります。
この数字をもとに、「1人の顧客を獲得するために、平均いくらまで広告費を使えるか」を逆算できます。
サブスクでは、「解約率の小さな改善がLTVに大きく効く」ことが多いため、解約率の仮定をどう置くかが重要な判断ポイントになります。
経験的には、「初月の解約率」と「2カ月目以降の安定した解約率」を分けて分析することで、より現実に近いLTVに近づけているチームも多いです。
その際、「初月に解約した顧客を含めるかどうか」でLTVが大きく変わるので、チーム内でルールをそろえておくことが大切です。
EC・小売でのLTV計算の一例
ECや小売では、購入のタイミングがバラバラなため、サブスクのような一定の解約率では表現しにくいことがあります。
その場合、次のようなシンプルな式から始めることができます。
- LTV=平均購入単価×年間購入回数×継続年数
例えば、あるリピーター向けコスメブランドで、次のようなデータがあったとします。
- 平均購入単価:5000円
- 年間購入回数:3回
- 継続年数:3年
この場合、LTVは「5000円×3回×3年=4万5000円」となります。
ここからさらに、「初回購入時の割引」「同梱サンプルからのアップセル」などを加味して、より実態に近いLTVを検討していくことができます。
ある店舗では、店長とスタッフの会話で次のようなやりとりがありました。
店長
「この新規キャンペーン、1人あたり1万円もコストがかかっているけれど大丈夫かな」
スタッフ
「リピートしているお客さまのLTVは4万5000円なので、長期的には元が取れていると考えられます」
このように、LTVを共有することで、短期の赤字に見える施策でも長期的な妥当性を説明しやすくなるというメリットがあります。
LTV計算でつまずきやすいポイント
LTV計算でつまずきやすいポイントとして、次のようなものがあります。
- 粗利率やコストの定義をチーム内で揃えていない
- 期間や対象顧客がバラバラの数字を混ぜてしまう
- 「高いLTV」を目標にしすぎて、顧客数の増加がおろそかになる
例えば、あるチームでは「広告費を含めた後の利益」をLTVと呼び、別のチームでは「広告費を差し引く前の粗利」をLTVと呼んでいたため、数字の比較がおかしくなっていたことがありました。
このような混乱を避けるためには、LTVの定義と計算式をドキュメントとして明文化し、関係者と共有しておくことが有効です。
また、「LTVを上げること」だけを追いかけると、価格を上げすぎたり、ヘビーユーザー向けの施策に偏りすぎたりするリスクがあります。
多くの場合、LTVは「顧客数」とのバランスで見るべき指標であり、どちらか一方だけを最適化しすぎないことが現実的です。
よくある質問
Q1
LTVは必ず利益ベースで計算しなければいけませんか。
A
多くの場合、意思決定に使うなら粗利ベース以上で計算したほうが実態に近づきます。
一方で、まずは売上ベースで大まかな傾向をつかみ、その後に粗利ベースに切り替えるステップもよく使われています。
Q2
どれくらいの期間をライフタイムと考えればよいですか。
A
事業モデルや商品特性によって変わります。
サブスクでは解約率から平均継続期間を求める方法が一般的で、ECや小売では「過去のリピートが十分に観測できる期間」を選ぶケースが多いです。
Q3
LTVと広告費の比率はどれくらいが目安ですか。
A
一般的な目安として、LTVの何割までを獲得コストに回すかという議論がありますが、利益目標や固定費構造によって適切な比率は大きく変わります。
社内の収益目標やキャッシュフローの状況を踏まえ、財務担当者と相談しながら決めるのが現実的です。
Q4
中小規模でデータが少なくてもLTVを計算する意味はありますか。
A
データが少ない場合でも、ざっくりとしたLTVを出すことで「顧客一人あたりの価値」のイメージを共有できます。
精度を求めすぎず、仮説ベースで数字を更新していくスタンスで活用するとよいです。
LTVの計算方法についてのまとめ
・LTVは一人の顧客が自社にもたらす生涯利益の合計を推定する指標
・LTVは売上ではなく粗利など利益ベースで見ると実態に近づく
・LTVの値は期間や解約率など前提条件で大きく変化する
・ライフタイムに含める期間やチャネルの範囲を最初に定義する
・分析の目的に合わせ顧客単位やセグメント単位など粒度を決める
・LTVは獲得コストとのバランスで見るべき指標で単体では判断しない
・代表的な式は単価×頻度×継続期間の掛け算型が使いやすい
・サブスクでは平均月額課金額と解約率を使う計算式が一般的
・ECや小売では平均購入単価と年間購入回数と継続年数を組み合わせる
・LTV計算では粗利率やコストの定義をチームで統一することが重要
・LTVを上げる施策と顧客数を増やす施策のバランスを意識する
・LTVは過去データに基づく推計であり事業環境の変化には注意する
・まずはシンプルな式から始め必要に応じて精度を高めていく
・LTVの定義と計算式を文書化し関係者と共有しておくと混乱を防げる
・大きな投資判断ではLTVの前提条件を専門家や財務担当と確認する
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