社外秘の資料をAIに要約させようとして、ふと「これって情報漏えいにならないだろうか」と手が止まった経験はないでしょうか。
生成AIは業務を大きく効率化できる一方で、入力した情報の扱いを誤ると、個人情報や機密情報が外部に漏れるリスクがあります。
そのため、多くの企業で「どこまでAIに入れてよいか」「どんな設定にすべきか」といった判断が現場任せになり、担当者が不安を抱えたまま運用しているケースが目立ちます。
この記事では、こうした不安を整理するために、AIの情報漏えい対策を実務で使えるチェックリストの形でまとめます。
ここで触れる内容は、企業の情報システム担当や情報セキュリティ担当の一般的な視点をベースにしています。
自社への具体的な適用や法的な位置づけについては、必ず社内の担当部門や専門家にも確認する必要があります。
・AI活用で起こりうる情報漏えいリスクの全体像
・AI情報漏えい対策チェックリストの具体的な項目
・ツール設定や社内ルール整備で見るべき判断基準
・現場で起こりやすいつまずきと再発を防ぐ工夫
AIの情報漏えい対策をチェックリストで整理する
AIの情報漏えい対策を考えるとき、個別のツール設定だけを見ても全体像がつかめず、抜け漏れが発生しやすくなります。
まずは「どのような情報を、どのようなAIに、どのような目的で入力しているか」という全体像を押さえることが重要です。
そのうえで、チェックリストを使って「何を確認すれば安全性が高まるか」を整理していきます。
この章では、AIの情報漏えい対策の要点とリスクの全体像、よくある誤解、そして自社に合った対策レベルの決め方を解説します。
以降のチェックリストを活用しやすくするための前提づくりのイメージです。
まず押さえたいAI情報漏えい対策の要点
AIの情報漏えい対策の要点は、大きく三つに整理できます。
一つ目は「AIに入れてよい情報の範囲を決めること」です。
二つ目は「利用するAIサービスやツールの仕様を理解し、設定を適切に行うこと」です。
三つ目は「ルールと教育で、現場の運用を継続的に支えること」です。
例えば、ある企業では「生成AIへの入力は社外秘情報は禁止」というルールを作ったものの、何が社外秘かが現場で人によって違うため、運用が混乱したケースがあります。
このような場合は、機密区分表を作り「社外秘AはAI入力不可」「社外秘Bは匿名化すれば入力可能」といった基準を決めることで、現場が判断しやすくなります。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、生成AI導入におけるセキュリティリスクと対策を整理したガイドラインを公開し、組織としてリスクを特定し管理する重要性を示しています。
(出典:IPA テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン)
判断基準として意識したいのは、「入力情報の機密度」と「AI側でのデータの保存・学習・共有のされ方」です。
この二つを掛け合わせて、許容できるかどうかを評価していくと整理しやすくなります。
AIの情報漏えいリスクの全体像をつかむ
AIの情報漏えいリスクは、「入力した情報そのものの扱い」と「AIが生成した結果からの推測」に大きく分けられます。
前者は、入力したテキストやファイルがサービス側に保存され、学習や分析に使われることで、意図しない形で第三者に伝わるリスクです。
後者は、生成結果に含まれる情報から、個人や企業が特定されてしまうようなケースです。
例えば、営業部門が「A社との商談条件を整理して」とAIに入力した場合、社名、金額、契約条件などがそのまま外部サービスに送信されます。
もしこのサービスが学習用にデータを利用する設定になっていれば、同様の情報が長期的に保存される可能性があります。
一方、社内で構築した閉域網のAIであれば、データは自社環境内にとどまり、外部サービスよりリスクを低くできる場合があります。
ただし、この場合でもアクセス権限やログ管理が不十分だと、社内からの持ち出しや誤操作による漏えいリスクは残ります。
経済産業省の「AI事業者におけるガイドライン(AI Guidelines for Business)」では、AI利用に伴うリスクを把握し、事業の状況に応じたガバナンスを構築することが求められています。
(出典:AI Guidelines for Business Ver1.1)
このように、どのリスクをどこまで許容するかは、業種や業務内容、扱う情報の性質によって変わります。
自社の置かれた状況を踏まえて評価することが欠かせません。
誤解されやすいAI利用ルールと注意点
AIの情報漏えい対策で、現場でもっとも誤解が多いのは「有名なサービスだから安全だろう」という思い込みです。
サービスの知名度と、利用場面における自社の安全性は必ずしも一致しません。
重要なのは、利用規約やプライバシーポリシー、企業向けプランの仕様などを確認し、自社の要件に合っているかを判断することです。
例えば、あるクラウド型生成AIでは、企業向けプランでは入力データを学習に利用しないことを明示しています。
(出典:OpenAI Enterprise privacy)
この場合でも、誤った権限設定や、個人アカウントでの利用が混在すると、意図せず学習に利用されるプランを使ってしまうおそれがあります。
会話例として、次のようなやり取りが現場ではよく見られます。
「この契約書、AIにまとめてもらっても大丈夫ですよね」
「そのAIは企業契約で使っていますか。
契約の機密レベルはどうなっていますか」
ここでの判断基準は、「どのアカウントで、どのプランを使っているか」と「入力する情報の機密度」です。
この二つを確認せずに「多分大丈夫」と判断してしまうことが、情報漏えいにつながりやすいポイントです。
また、「AI側でデータを削除したから、社内での取り扱いもすべて問題ない」と考えてしまうのも誤解の一つです。
ログやキャッシュ、バックアップ、端末に保存されたファイルなど、他の場所にデータが残ることもあります。
削除やマスキングの範囲を、システム側と業務フローの双方で確認する必要があります。
自社に合ったAI情報漏えい対策レベルの決め方
AIの情報漏えい対策は、すべての企業が同じレベルを目指す必要はありません。
重要なのは、自社の規模や扱う情報、既存のセキュリティレベルに応じて「どこまでやるか」を決めることです。
判断のステップとして、次のように考えると整理しやすくなります。
1行目
自社が扱う情報を、「一般公開情報」「社内限定情報」「取引先との秘密保持契約がある情報」「個人情報や機微情報」といった区分で棚卸しする。
2行目
それぞれの区分ごとに、「AIへ入力してよい」「匿名化すれば入力してよい」「AIには入力しない」という方針を決める。
3行目
その方針に合うAIサービスやプラン(社内向け、クラウド型、オンプレミスなど)を選び、必要な設定を施す。
このとき、デジタル庁が公表している、政府調達における生成AIサービス利用のガイドラインのように、入力情報の機密度とAI側でのデータ保存・学習の有無を組み合わせてリスクを評価する考え方は参考になります。
(出典:The Guideline for Japanese Governments’ Procurements of Generative AI services)
「すべて禁止」か「すべて自由」の二択ではなく、「この条件なら使える」「この条件なら注意が必要」といった中間のレベルを設けることで、業務効率と安全性のバランスを取りやすくなります。
ここでの判断は、情報システム部門や法務部門、現場部門など関係者で共有し、定期的に見直していくことが望まれます。
実務で使えるAI情報漏えい対策チェックリスト
ここからは、実務でそのまま使える形を意識して、AIの情報漏えい対策チェックリストを整理します。
日常業務でAIを使う前に確認したい項目から、システム設定や社内ルール整備まで、代表的なポイントを網羅するイメージです。
すべてを一度に完璧にする必要はありません。
自社の現状やリソースに応じて、優先度の高い項目から順に取り組むことが現実的です。
チェックリストを使いながら、少しずつ安全な運用体制を育てていくイメージを持つと良いでしょう。
チェックリストで整理するAI情報漏えい対策の代表パターン
AIの情報漏えい対策のチェックポイントは、代表的なパターンに分けると整理しやすくなります。
ここでは、次の四つに分類します。
1行目
業務でAIを使う前に個人が確認する「日常業務の利用チェック」。
2行目
IT部門や管理者が担当する「システム設定とツール選定」。
3行目
組織全体に関わる「社内ルール・規程の整備」。
4行目
万が一トラブルが起きたときの「インシデント対応と再発防止」。
判断基準としては、「誰が」「どのタイミングで」「何を確認するのか」を明確にすることが重要です。
例えば、日常業務の利用チェックは利用者本人が行いますが、ルールやテンプレートの整備は管理部門が担います。
役割分担をはっきりさせることで、「誰も見ていなかった」状態を防ぎやすくなります。
また、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のガイドラインでも、組織としての導入・運用・管理という観点で役割を整理することの重要性が示されています。
(出典:IPA テキスト生成AIの導入・運用ガイドライン)
日常業務でAIを使う前に確認したいチェック項目
実際にAIにテキストを入力する前に、利用者が自分で確認できるチェック項目の例を挙げます。
ここでは、個人がその場で判断できるよう、シンプルな質問形式にするのがポイントです。
例えば、次のような自問自答が役立ちます。
・この内容に、個人が特定できる情報は含まれていないか
・取引先名や社名、プロジェクト名など、外部に出ると問題になる固有名詞はないか
・社外秘の売上数字や見積金額、未発表の企画内容をそのまま貼り付けていないか
・入力する必要がない情報まで一緒にコピーしていないか
現場では、「とりあえず全部コピペしてから削ろう」と入力し、そのまま送信してしまうケースがよく見られます。
これを防ぐには、「コピーする前に不要な情報を削る」「AIに渡すのは要約した情報だけにする」といった習慣づけが有効です。
会話例として、次のような場面が想像できます。
「議事録をAIに要約させたいんですが、そのまま全部入れてもいいですか」
「参加者名と社名は消してからにしましょう。
機密度が高い議題は、要点だけを抽象化して入力する方が安全です」
このように、チェックリストは単なる項目の羅列ではなく、「どのように考えれば安全側に寄せられるか」を示すガイドとして使うと効果的です。
システム設定とツール選定で確認したいチェック項目
情報漏えい対策では、ツール側の設定や選定も重要です。
クラウド型の生成AIサービスでも、企業向けプランでは入力データを学習に利用しないなど、データ保護を強化したものが増えています。
(出典:OpenAI Business data privacy, security, and compliance)
チェックすべき代表的な項目は、次のようなものです。
・入力データが学習に利用されるかどうか、プランや設定で選べるか
・ログの保存期間や保存場所、アクセス権限の管理方法
・データの保存先(国内外、クラウド事業者のリージョンなど)
・シングルサインオンや多要素認証など、認証まわりの機能
・管理者が利用状況を把握できる監査ログやダッシュボードの有無
判断基準としては、「自社の機密情報を扱う業務に使えるレベルか」「一部業務に限定して使うべきレベルか」を見極めることがポイントです。
たとえば、ログが長期間保存されるサービスは、機密性の高い情報には向かない場合がありますが、一般的な業務マニュアルの作成には十分利用できることもあります。
システム部門では、こうした観点から候補となるツールを比較し、「高機密情報には社内環境のAI」「それ以外にはクラウド型AI」といった使い分けの方針を作っておくと、現場の判断がしやすくなります。
社内ルール整備と教育で確認したいチェック項目
ルールや教育が不十分なままAIを導入すると、「知らなかった」「聞いていない」という理由でリスクの高い使い方が広がってしまいます。
逆に、ルールが厳しすぎても、現場はAIの利用を避けてしまい、業務効率化の機会を逃してしまいます。
代表的なチェックポイントは次の通りです。
・AI利用の目的と対象業務が、社内で明文化されているか
・AIに入力してよい情報、入力してはいけない情報が具体例付きで示されているか
・NG例(悪い使い方)とOK例(望ましい使い方)がセットで共有されているか
・個人アカウントや無許可のツール利用(シャドーIT)をどう扱うかが決まっているか
・インシデントが起きたときの連絡窓口と初動対応フローが定められているか
特に、「NG例とOK例の両方を示す」ことは重要です。
「これはダメ」とだけ書かれたルールは、現場から見ると使いにくく、「結局何なら良いのか」が分からないままになりがちです。
現場では、研修で扱った事例がそのまま守られているケースが多く、「こういうときはこうしてよい」という具体例が運用を支える大きな力になります。
定期的な教育と合わせて、FAQやチェックリストを社内ポータルなどに掲載しておくと、従業員が迷ったときにすぐ確認できる環境が整います。
AI情報漏えい対策でよくあるつまずきと対処の考え方
AIの情報漏えい対策で、現場や管理者がつまずきやすいポイントはいくつか共通しています。
ここでは、代表的なものと対処の考え方を整理します。
一つ目は、「忙しくて毎回チェックリストを見ていられない」という声です。
この場合、全項目を毎回確認するのではなく、「最低限ここだけは見る」というショートバージョンを作ると運用しやすくなります。
例えば、「個人情報が含まれていないか」「社外秘の数値を入れていないか」の二つだけを、画面の横に貼り付けておくイメージです。
二つ目は、「どの情報がどの機密区分に当たるのか分からない」という悩みです。
ここでは、法務部門や情報セキュリティ担当が例を挙げながら、判断のグレーゾーンを一緒に検討する場を設けると効果的です。
判断基準を一度整理しておけば、似たケースに応用が利きます。
三つ目は、「インシデントが疑われるときに、誰に、どのタイミングで相談すべきか分からない」という点です。
あらかじめ「迷ったらこの窓口に連絡する」「一定レベル以上は速やかに上長と共有する」といったルールを決めておくことで、対応の遅れを防ぎやすくなります。
これらのつまずきポイントは、チェックリストの項目を増やすだけでは解決しません。
「現場が使える運用」に落とし込むことを意識し、定期的に運用状況を振り返りながら、リストやルールを更新していくことが大切です。
AIの情報漏えい対策チェックリストのよくある質問
ここでは、AIの情報漏えい対策チェックリストに関して、よくある質問と考え方の一例を紹介します。
実際の運用では、自社の状況に合わせて専門家と相談しながら判断することが必要です。
Q1
「完全に安全ならAIを使ってよいと説明してもよいですか」
A1
「完全に安全」という表現は避ける方が無難です。
多くの場合、「この条件のときはリスクが低い」「この条件のときはリスクが高い」という形で説明し、判断材料を共有する方が現実的です。
Q2
「無料プランと有料プランで、情報漏えいリスクはそんなに違いますか」
A2
一般的には、有料の企業向けプランの方が、データの学習利用の有無を選べる、ログ管理や認証機能が充実しているなど、リスクを抑えやすい傾向があります。
ただし、プラン名称だけで判断せず、必ず仕様書や規約を確認する必要があります。
Q3
「社内で構築したAIなら、情報漏えい対策はあまり気にしなくてよいですか」
A3
社外への漏えいリスクは抑えやすくなりますが、社内での誤操作やアクセス権限の誤設定による漏えいは残ります。
特に、開発担当者や管理者が広い権限を持つ場合は、その権限管理やログ監査が重要になります。
Q4
「法令への対応は、チェックリストだけで足りますか」
A4
法令対応については、チェックリストはあくまで整理のための補助ツールです。
最終的な判断は、所属組織の法務部門や顧問弁護士、個人情報保護の専門家などに相談する必要があります。
AIの情報漏えい対策チェックリストのまとめ
・生成AIには入力情報の漏えいリスクがある
・リスクは入力内容の機密度と保存範囲で変わる
・まずは社内のAI利用目的と対象業務を整理する
・機密区分表を作りAIに入れてよい情報を決める
・個人情報や取引先名は原則そのまま入れない
・クラウドAIのデータ扱いの仕様を必ず確認する
・ログ保存や学習利用の有無は重要な確認ポイント
・アクセス権限と認証設定を見直し不正利用を防ぐ
・プロンプト入力前にコピペする内容を再確認する
・メール文面など定型業務はサンプル化して使う
・AI利用ルールとNG例を社内で具体的に共有する
・定期的な教育とケーススタディで意識を維持する
・インシデント時の連絡フローと初動をあらかじめ決める
・自社だけで判断が難しい点は専門家に相談する
・チェックリストは一度で終わらせず継続的に見直す
・はじめてのAIの社内利用ルール例とガイドラインの作り方
・現場で使えるAIマニュアルの作成手順と品質維持のコツ
・AI活用で提案書の構成を作る時の基本と実践ガイド
・AIを活用した企画のアイデア出しの実践的な進め方とコツ
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